書斎に憧れる方はとても多いことと思います。「書斎スペース」なるものを作った私でも自分の理想とするような書斎に憧れを持っています。
ネット上には書斎のレイアウトや実例といって素敵な写真が多くありますが、中には実用性には乏しいような書斎や、自分にはとうてい実現不可能であるような豪華な書斎があり、参考になりません。
書籍を参考に理想的な書斎を構築していこうと思い立つも、そもそも書斎について書かれた本は実に少ないです。
そんななかすでに絶版になってしまっているのですが、岩波書店さんからとても興味深い本が出ていたことを知りました。その名も「書斎の王様」。
岩波新書 – 書斎の王様
- 本名 書斎の王様
- 著者 「図書」編集部編
- 刊行日 1985/12/20
- ISBN 9784004203247
- 体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 238頁
こんな人におすすめ
- 書斎や書庫に興味・憧れがある方
- 著名人の書斎がどうなっているのか興味のある方
- 書斎の作り方を参考にしたい方
この本のターゲット層は割と限定的で、つまるところ書斎に興味を持っている方におすすめできるということになりそうです。
書斎に関する本って思ったより少ないから、この本はとても参考になります。
読もうと思ったきっかけ
書斎を作ろうと思ったときに書籍を参考にしようと思ったのですが、書斎に関する本が実に少なかったです。雑誌やムックをあさるも「北欧風」「カフェスタイル」「一人暮らし」「秘密基地」という文句ばかりで、「書斎」がタイトルに含まれているような書籍は見当たりませんでした。
「もったいない本舗」さんというオンラインの古本屋さんで検索をかけたところ、偶然見つけたのがこの「書斎の王様」でした。タイトルに惹かれたというのもありますが、岩波新書というのがなによりも驚きで、ついついカートに入れてしまいました。
残念なことにすでに絶版になっているようですが、もったいない本舗さんの方の在庫はまだまだあるようでした。
各著名人が書斎とどう関わってきたかを明かす..という文句が目に入りまして、たとえば学者なんかは膨大な文献や蔵書を持っていてそれを管理する必要がありますから、これは参考になるんじゃないかと思って注文しました。
目次
- 大江志乃夫 書斎の合理主義
- 尾崎秀樹 わが家の書庫
- 小田島雄志 書斎憧憬史
- 倉田喜弘 新聞記事の収集に賭けて
- 小泉喜美子 夢みん、いざや
- 椎名誠 素晴らしいガタゴト机
- 下村寅太郎 蔵書始末
- 庄幸司郎 書斎造りを通して出会った人々
- 杉浦明平 地獄化した書斎
- 立花隆 わが要塞
- 永瀬清子 女なのに書く場合
- 林京子 笈の小箱
- 星野芳郎 職住分離型書斎の経済的背景
- 村松貞次郎 本と道具と木と樹
- 山田宗睦 書斎七遷
- 由良君美 緑・随縁ー集書の不思議
- 吉野俊彦 書斎・我が城
この本の概要
各分野での著名人によって語られた、それぞれの書斎論をまとめたのがこの「書斎の王様」です。
「書斎とはこうあるべきものだ!!」というそれぞれの考えが全面に出ているのではなく、今の書斎ができあがるまでの経緯や苦労、失敗、書斎を造る以前での理想などを中心に綴られています。
ところどころ写真が載っていますので、どんな書斎なのかイメージもわきます
個人的に印象に残った箇所
その著名人によって中心となるテーマはやや異なっています。
書斎を建てる経緯について、蔵書の管理について、書庫について…
と書斎周りの話を盛り込んできている方もいますので、さまざまな視点から書斎というものを見つめ直すことが出来ます。
ここでは私が「書斎の王様」を読んで「印象的だったこと・感じたこと」を5つピックアップしてみました。
- 合理的な書斎というのも考えものかもしれない
- 喫茶店を書斎として使う
- 電車内を書斎として使う
- 書斎の条件
- 自分の理想像を参考にする
- 効率性をとるか芸術性をとるか
合理的な書斎というのも考えものかもしれない
「大江志乃夫 書斎の合理主義」では合理的な書斎の構築過程について綴られていました。引っ越しを機に書庫・書斎をつくるというのがメインです。
とくに愛書家でもない私には、蔵書をながめて楽しむという趣味はない。電動式の書架はできるだけ小さい面積にできるだけ大量の本をつめこみ、必要な本を最短時間で取り出せるという私の希望にぴったりであった。
『書斎の王様』岩波書店 3ページ
と書いているように、合理性を求めている方には電動書架が有用であるということがわかります。
電動でなくても、スペースを活かしてより多くの本を収納するには移動式の書架を導入するのが吉ですね。
<機能的な書庫を持った喜びのかわりに、大きな楽しみを失った。本の山の中からめざす本をさがす過程の楽しみである。>(6ページ)
しかし電動書架を導入し機能的な書庫を持ったことで、「本の山の中から本を探す」という過程の楽しみをうしなったと言っています。
本を整理する際、「本を探す手間」と「手早く本を取り出す」という相異なるこの2つのいずれか1つを選ばないといけない運命なのですね。
たいていの方は電動書架をマストとするほどの蔵書を抱えてはいないと思いますが、いずれ電動もしくは移動式書架を導入したいと考えていらっしゃる方がいるのであれば、「本を探す手間」と「手早く本を取り出す」とを天秤にかけなければならないかもしれませんね。
私自身電動書架に憧れを持っていたのですが、本を探す楽しみがなくなってしまうのはやや寂しいと思いました。それに本の背表紙を眺めるのも好きなので、機能性を重視するのも一つ考えどころだなと感じました。
喫茶店を書斎として使う
<書斎、ということばが好きだ>(28ページ)と1文目から語っているのについ読む気が出てしまったのが小田島さんの書斎論でした。
そんな小田島さんが最初書斎として使っていたのは、なんと喫茶店だったそうです。その当時、アパートの冷暖房の都合上から喫茶店を利用することを思いついたそうです。その喫茶店で卒論も書いたとのこと。
現代でも、特に学生の方なんかは大手のカフェで勉強していますよね。空調完備で、快適な環境下で作業するとはかどりそうです。
引っ越しを機にはじめて書斎という部屋を持った小田島さんでしたが、そこでは仕事をせず結局のところ喫茶店で仕事をしたそうです。
習慣っておそろしいですね。
書斎はつくったものの結局使わなかったというパターンで、この書斎はやがて本置き場となったようです。
昭和30年代の話なので現代と完全に重ねて考えるのは良くないかもしれませんが、部屋がなくても書斎は成り立つということを教えてくれる例でした。
電車内を書斎として使う
机の前ではついついボーッとしてしまう。
書く気も読む気も起こらない
という風に感じてしまう方は、通勤通学の電車内を利用してはどうでしょう?
この電車の小刻みな振動が、実に都合の良い書斎的空間だったようです。
電車酔いをする方には向いていませんね…
電車内を書斎空間をして使うというのは、もしかしたら「書斎」という個室を創ること以上に試行錯誤が必要になるかもしれません。
電車内を書斎にする場合では、本来書斎にあるはずの机はありませんからそれをどうにか作る必要があります。それ以外にも本棚なんてものもありません。
そんな制約の多い電車の座席をなんとも機能的な書斎空間として活用する様が書かれていました。
私は高校の時汽車通学だったので、移動時間は勉強の時間に充てていました。
私は鞄ではなくクリップボードを活用していたため、電車内の活用についてはとても共感しました。
学生の方でも利用できる話題だったなと思います。クリップボードに関しては記事を書いていますので、気になる方は是非読んでみてください。
書斎の条件
書斎の構築について一番詳しく書かれていたのが、「立花隆 我が洋裁」の章でした。
この章全てが、私にとって重要な内容だなと思いました
ここの賞で立花さんは、好みの書斎の条件について以下のように挙げています。
①外界から隔絶された、②狭い、③機能的に構成された、空間である。
『書斎の王様』岩波書店 123ページ
そして立花さんはこの条件の下で、書斎を構築しています。
書斎を作る上で私は
書斎をつくる目的をまず明確にする
と呪文のように唱えてきましたが、これではやや不十分だったのではないのかと、立花さんの書斎論を通じて考え直すきっかけとなりました。まだはっきりとした考えにはいたっていませんが、自分が掲げている原理原則を見つめ直すいい引き金になったということで、良い影響を与えていただけたなと感謝するかぎりです。
また実際に会わなくてもその人の考え方を知ることが出来るというのが、本の強みであるなと改めて思えるきっかけにもなりました。これからも色々な本を読んでいきたいものですね。
自分の理想像を参考にする
最後のセクションでは吉野俊彦さんが書かれています。
吉野さんは森鴎外の研究をされていて、<日々の生活の理想的姿を、私は森鴎外の一生の中に見いだしている>(220ページ)そうで、書斎を作るとなった際も鴎外の書から得られた情報を参考に、書斎の指針を自分で構成したそうです。
これは実に興味深いなと思いまして、たとえば私は「シャーロックホームズ」を理想像としていますので、部屋をつくるときも少なからずホームズを参考にしました。そして書斎もホームズのような書斎空間を目指しています。
このように自分の理想とする人物を中心に、自分の書斎を構築していくというのも1つてであるのだなと言えます。
自分以外にも似たような考え方で書斎を構築している方がいたというのが驚きで、つい親近感がわいてしまいました。
効率性をとるか芸術性をとるか
都合上サブの見出しにしてしまいましたが、同じく吉野さんは「効率性に逆らう」というこれまた興味深いことをしています。
効率性をとるのか、芸術性を取るのか。その妥協によって書斎と書庫はできているというのは実に納得のいく考え方です。
書斎作りをしている方、された方はこれに相当悩まされたことと思います。
最初の大江さんは効率性をとり、最後の吉野さんは芸術性ととるという面白い構成になっていますね。
まとめ
書斎をつくるとき、ついつい雑誌やムック本に手が伸びてしまいがちですが、ときにはこういった新書も参考になることがあります。
また意外にも古本や古書をあさってみると、自分の理想としていたような本に巡り会えることもあります。今回の自分がまさにそうでした。
この各著名人による書斎論はたいへん学びも参考に出来る箇所も多かった一冊でした。すでに絶版になってはいるものの、もったいない本舗さんという古本屋さんではまだいつくか取り扱いがあるようでした。
早い者勝ちになりますので、気になった方は是非お早めに!!
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